夫婦で暮らすようになって30年経つ。
妻は人生の過半を超し、私もまだだがもうすぐだ。
一緒に暮らすということは同じ人生を過ごすことかと結婚する前は思ったがそうでもないようだ。
子どもが小さいときはそうだった。家族の船に乗って皆で同じ方を向いていた。週末はいつも一緒に過ごした。目標も目的も悲喜こもごもも共有していたようだった。
それがいつの日からかだんだんとそうでもなくなる。一人が家族旅行の輪から抜け、一人が目標を達成して別行動になっていく。家族の物語というのはそういうものだろう。
家族の船がだんだんと輪郭を失っていくとき、私たち夫婦の輪郭も薄らいでいったかもしれない。あるいはそんなものは初めからなかったのかもしれない。だんだんと私たち夫婦はほぼ別の方向を見て暮らすことが多くなった。週日はそれぞれの仕事をしているし、週末は一緒に過ごすが、それぞれの用件でそれぞれに過ごすことも少なくない。でも一貫して仲は悪くなかった、と思う。日々の出来事を話して喜びや憤りを共有するし、記念日や夏休みの海外旅行も欠かさず、一緒に計画を立てて出かけている。何かあった時には一緒に考えるし、価値観も解決の方向性もずれていないと思う。それでも適当な距離があることが性格や趣味の異なる二人が円満に仲良く暮らす秘訣になっているといえるように思う。
そんな風に少し疎遠になっていたかもしれない私たち夫婦に数年前、天使が舞い降りた。マルチーズとプードルのミックス犬。これが可愛いのだ。夫婦は二人ともこれまで動物と暮らしたことがなく初体験。家族の船が一回り小さくなって戻ってきたようだ。子どもたちと漕いだ家族の船は荒波も多かったし、航路も長く厳しく辛いことも多かったが、この子と乗る船は穏やかでただただ楽しいだけだ。この子が来てから週末だけでなく、夕方に夫婦で散歩したりちょっとした休日の外出も多くなった。この子の力を借りて、これから40年目、もしかしたら50年目に向けて、互いに依存し過ぎず、楽しみや笑いや、たまにはちょっとした心配事も共有して暮らしていくパートナーシップをしっかりと保っていくことができたら良いと思う。